2016.06.19

「そろそろ日本に帰ろっかな」


午後1時。天井を眺めていると突如「もう日本に帰ろっかな」と思った。
海外生活いいよー! 街並み綺麗ー! どこでも働けるよー! などと書いている身として、こういう面も正直に言わなくてはいけないと思って、今急いでブログを書いている。


決してさみしくなったわけではない。
日本語が恋しいわけでも、日本食が恋しいわけでも、ここの生活が嫌いになったわけでも、嫌な思いをしたわけでもない。


ここは1ヶ月たってもなお”最高”だし、友達との時間も楽しい。
ただあまりに平和すぎて、心がざわつくのだ。


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平和すぎるのが毒だというのは、実家である山口に帰るときもたまに思う。もちろん心の拠り所としてそういう場所はかなり重要で、なくてはならない場所(私は山口も好き)なのだけど、でもわたしの場合山口に帰って数日もすれば思い悩んでいたことはほとんどが「どうでもいい」ことへと変わり、生き方への向上心は8割減、好奇心も9割減、性欲も8割減、食欲も6割減とゆゆしき事態になる。逆に高まるのは睡眠欲くらいで、こちらは14割増という急成長を遂げる(笑)。


近所の話をきき、友人の恋人の話をきき、誰かの結婚式の写真や、誰かに子供が生まれたとか、誰かは今度ファミリーカーを買うとかそういう話を聞きながら、「今度は渋谷のど真ん中で体当たり取材をしよう」だとか「世界で原稿を書こう」だとかそんな気分には到底なれず、むしろ親戚が誰かの結婚の話をうれしそうにしたあとに「仕事忙しいの?」なんて聞かれるとやはり、「えっと、幸せってなんだっけ」などと考えてはいけない問いが頭に浮かぶ。


将来設計は人それぞれだし、何を幸せとするかも人それぞれで、わたしは「やりたいことを存分にやってから結婚する」と昔から心に決めていた。いまそのとおり生きている真っ只中で、東京にいれば迷わない。のに、山口に帰ると何か”戸惑う”のだ。ざわつく、とも言える。価値観が、揺れる。

それと似た感覚を、ここでも感じる。


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天井を見つめ、外を散歩し、風を見つめる。これだけ聞くと穏やかで「考え事」や「インスピレーション」も湧きそうなものだけど、ここは「考え事」には不向き(と、わたしは思う)。周りが陽気すぎるからか、それとも単に人が多いからか、ひとりなのに「ひとりじゃない」ような感じがしてしまう。夜も22時近くまで明るいので、「放っておいてくれない」「わたしをひとりにしてくれない」という感覚もある。


不意に自分を見失いそうになる。自分がしたいこと、しあわせとおもうこと、なりたい自分。それらを見失いそう、と思いつつ、「”なりたい自分”」という言葉でさえ、ここではなにか存在が危うくなる。


バレンシアで数日前に出会ったライターさん(彼女のことはまた別途書きたい)は、冷たいカフェオレを飲みながら、「なんかもう、ここにいると”書かなくてもいいじゃん?”、”(誰かに伝えるとかじゃなくて)もう自分だけわかってればいいじゃん?”ってきになる。それで生きられるし、なんか平和だし」と言っていて、ふたりで大笑いした。
書くのが好きで、伝えるのが好きでライターになっても、そう思ってしまう。彼女は、そのことにも危機感をおぼえ、他の理由も相まってこの夏で5年住んだバレンシアを出て行くという。


たった3週間だけど、その感覚は少しわかるきがする。”なりたい自分”など意味がなく、今ここで毎日が楽しいこと、平和でいられること、オレンジがよく熟れてあまいこと、それが全てな気がしてくる。その考えの背中を押すように、毎週のようにどこかでお祭りをやり、街に音楽が流れ、ビールも安く、簡単に「しあわせ」を感じられる。

太陽は「これ以上何が必要なの?」と問いかけてくる。わたしは「そうね。これで十分かも」と答えそうになる。


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「帰らなきゃ」

最近になってちょっと思う。
きっと簡単にしあわせが手に入りすぎる。何度もいうけれど、ここは旅行にくるには最高の場所だし、わたしはバレンシアが大好きになった。本当に、わたしの全友人におすすめしたいほどに。でも、いまわたしはここで「生活」している。気分が違う。それですこし、事情が異なるんだろう。


せっかく2ヶ月いられるのに、帰ろうか検討しているなんて「せっかくなのに!」と笑うかもしれないけれど、この感覚はやや「恐怖」にも近い。


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もともとは7月は好きな国にちょっと旅に行こう!なんて思っていたけど、今はもう「また来ればいいや」というのんびりした気持ちでいる。それに、軽い気持ちで東京へ帰る航空券を見たら……、たったの5万円で帰れる。地元の山口に帰るだけで往復4万円以上するというのに。ふむ、海外はこんなに近くなった。


一箇所にいるとそこの環境がどんどん染み込む。それが良い加減のこともあれば、だんだんと良い加減を通り過ぎていくこともある。それは東京でもバレンシアでも同じ。もちろんどんな場所にいようと自分を律することができる人もいると思うけれど、きっと、いい意味でもわたしにとってはここは馴染みやすいんだろう。

2ヶ月間もスペインにいられないかもしれない。なんて考えながら、今日も窓の外を眺めている。明日から一度バレンシアを離れ、北スペインへと移動する。そこでまた心境の変化があるといいけれど。

曖昧で、正直な気持ちをここに記して。


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